お知らせ

鹿野苑のつどい「手話からのご縁」レポート

去る11月6日に、大泉寺成道会鹿野苑のつどいを開催いたしました。

曹洞宗ではSDGs(エスディージーズ-国連が定めた持続可能な開発目標)の取り組みの一環として、本年度より「みんなお寺に来てほしい」というキャッチフレーズを掲げて、どんな方にもお寺に来ていただけるよう取り組んでおります。

とはいえ、個々の寺院ですぐに取り組むことには限界があります。そんな中、本年の八王子市仏教会主催の講演会で俳優の東ちづるさんのお話を伺う機会がありました。

その際に、「限られた環境の中で私たちには何ができるでしょうか?」と質問したところ、「わからなくても、わかろうとしていることを伝えることは出来ますよ。」という言葉をいただき、大泉寺でも先ずは知ることから、そしてできることから取り組んでいくということにしました。

今回の鹿野苑のつどいでは、「手話からのご縁」と題して「手話通訳士・八王子市登録通訳者」の梅田さやかさん森里美さんのお二人をお招きし、「聞こえない」ということや手話にまつわるお話などを伺いました。


「聞こえない」という身体のメカニズムについてお話しする梅田さやかさん。

聞こえない方とのコミュニケーションというと真っ先に手話が思い浮かびますが、実はみんなが手話を使うわけではなく、また、「聞こえない」と一口に言っても、その状態や程度はそれぞれに違うと言います。なので相手に合ったコミュニケーションが何より大事だとお二人はおっしゃいます。

聞こえないことによる苦労や職業の制約など、お話を伺わなければ知らなかったり気づかなかったようなことがたくさんありました。教育を受ける権利や、職業を選ぶ権利といった側面から、聞こえない方の置かれている状況は以前よりは改善されているものの、まだまだ取り組みが必要なこともあるのだそうです。

昔は差別や偏見から身を守るために聞こえないことを周囲にばれないようにしなければならなかったり、聞こえないことが理由で制約を受けるということは社会が抱える「障壁」であって、今のところ「たまたま」聞くことのできている私たちの側が、理解を深めていかなければいけないのだと思いました。

他にもCODA(コーダ)、デフファミリーと言われる家族のこと、デフリンピックを東京に招致しようという動きがあることや、手話には方言があるのか?世界共通か?などと言ったことなど、沢山のことを教えていただきました。

ちなみにアメリカやフランスでは、手話で「ありがとう」を表すときに投げキッスをするのだそうです。

手話で表せない言葉は指文字を使うのですが、時代に合わせて新しい手話も作られていくのだそうで、最近では「コロナ」 「黙食」 「映(ば)える」なんていう手話ができたそうです。

すぐに使える手話も教えていただきました。
「お手伝いが必要ですか?」 「大丈夫・大丈夫?」 「わかる・わからない」 「気を付けて」 「ありがとう」 など、一つの手話でも顔の表情や身体の使い方によってニュアンスが変わることなどを教わりながら、参加者の皆さんも一緒に手話にチャレンジしました。


ホワイトボードに貼り出した問いに答える森里美さん

今回の講師のお一人の森さんは、手話通訳の道を歩み始めるまでの数々のご縁についてもお話しくださいました。その中で、「聞こえない」ということが人から見てもそうとはわからないということで周囲から誤解されてしまうことが多かったり、正しい情報が入りにくいなど、私たちにはわ入力らないご苦労があると知ったことからこの道を歩み始め、現在に至るのだそうです。

「聞こえない人=手話 ではなくて、もし、手話がわからないなら書けばいい。指をさすなどいくらでも方法はあって、目の前にいる人とコミュニケーションをとればいいんです。」とも教えてくださいました。

また、聞こえない方にとって最も深刻な障壁となる情報障害について具体的な方法も示してくださいました。

例えば災害時に後ろから声をかけても気づかないというような時には、その方の正面に回ったり肩をたたいてお知らせしたり、何かに書いたりスマホを使ったりすることができるということ。そして盲ろう者の方の場合は、指で掌(てのひら)や背中に文字を書くなどというように、相手に合ったコミュニケーションをとるということを軸にすれば、手話ができないから、専門の知識がないからと身構えることなどないのだと感じることができました。

その他にできることとして、お店などならばホワイトボードを置いたり、名前や挨拶など一つだけでも手話を使って、コミュニケーションを取りたいという気持ちを相手に伝えることが大事だともおっしゃっていました。

実は今回の企画は、冒頭で申し上げた東ちづるさんの講演会の手話通訳を梅田さんと森さんのお二人がしていらしたことから始まりました。(その講演会にお二人が繋がるまでにも数々のご縁があったのですが。)お二人は講演会などの手話通訳をするときに、その方の講演会の記録を見たり著書を読んだり、参加した方の感想を読んだりしているのだそうです。今回の大泉寺での講演のためにもたくさんの準備をしてくださいました。

今回初めて手話通訳をしていらっしゃるお二人から直接お話をうかがうことができ、手話通訳者の方が、発言する方の雰囲気や考えに添った表現で「伝える」ために、このような姿勢で取り組まれていることを知りました。そして改めて、手話通訳というのは聞こえない人と聞こえる人をつないでくれる「なくてはならない」大切な役割を果たしている仕事なのだと実感しました。

 

すぐに手話や指文字を覚えることは難しくても、私たちが知ることでいくらでもコミュニケーションを取ることができるということがわかり、また、聞こえない方にとって障壁となっていること(もの)を取り除くのは他でもない私たちの役割なのだとも思いました。

今回話しくださった梅田さやかさんと森里美さんに、改めて感謝申し上げます。
ありがとうございました。

(文責:久保井奈美)

 

【お話中に紹介のあった八王子市の手話通訳講習会】
八王子市の手話通訳講習会は毎年4月の広報でお知らせ、5月から開始されます。

【梅田さんと森さんからのお薦め本】
わくわく! 納得! 手話トーク(おすすめ本)
松岡和美[著] 高野乃子[マンガ]くろしお出版

●お話を伺った中で出てきたトピックスについて、改めて以下の記事を読んでみました。
・NHKハートネット ろうを生きる 難聴を生きる
・「知ってほしい!コーダを育てる親の悩み」
・手話と口話-ろう教育130年の模索-
・私たちには「逃げろ」の声が聞こえない
・盲ろう者について知ってください

最近のお知らせ

法臺山 大泉寺 > お知らせ > レポート > 鹿野苑のつどい「手話からのご縁」レポート