鹿野苑のつどいレポート「フードドライブから見えてくること~貧困と社会的孤立~」(お話し:國本康浩さん)」
大泉寺ではお釈迦さまがお悟りを開かれた成道会(じょうどうえ)にちなんで毎年この季節に「鹿野苑(ろくやおん)の集い」を開催しています。
6回目となる本年は、「一般社団法人 フードバンク八王子」より代表理事の國本康浩さんをお迎えして、「フードドライブから見えてくること~貧困と社会的孤立~」と題してお話しいただきました。
大泉寺では2018年11月より八王子市仏教会のフードドライブの呼びかけに賛同し、「大泉寺フードドライブ」として奇数月に檀信徒や近隣の皆さまから食品の寄付を募り、「八王子食堂ネットワーク」にお届けしています。」
画像:大泉寺フードドライブに寄せられた食品
今回は、皆さまのご協力により初回より毎回欠かさずお届けすることができている食品が、どのような場所でどのように活用されているのか、またどのような想いの元に「フードバンク八王子」の活動が行われているのかを直接伺う機会となりました。
私たちがお届けしている食品の活用先は主に
●困窮している方々への食糧配布。
●現在八王子に約30か所ある子ども食堂への提供。
●コロナ禍でバイトが減る等の影響を受けている東京都立大学の学生向けの食糧配布。
となっています。
コロナによる様々な影響から食料配布の数が増えているということですが、その分寄付も増えているのでどうにか不足することなく賄っていけているのだそうです。
國本さんは、フードバンクを “寄付された食品” と “食品が必要な人” とを繋ぐ「中継地点」と位置付けて取り組みを行っていますが、本当の問題は「社会的孤立」にあると考え、行政や施設との繋ぎ役になると同時に、食をツールとして人とのつながりを作っていく「中継地点」となるよう心掛け、コミュニケーションを大切にしているとおっしゃいます。
定期的に行っているフードパントリー(食品配布)の日には、ただ食品を渡すだけではなく話をしていってもらえるような場にするなどの工夫をしており、中には食品配布を必要としなくなってからもお話しをしに来る方もいらっしゃるのだとか。そのように、フードパントリー(食品配布)が繋がりを持てる場として存在しています。
また、フードバンク八王子ではうつ病や発達障害の方々への就労支援も行うなどの「社会的孤立」を防ぐための取り組みも行っています。
画像:一般社団法人 フードバンク八王子/代表理事の國本康浩さん
最近では以前より取り組んできた「子ども食堂」への支援にさらに力を入れており、フードバンクの枠を超え、食を通したコミュニケーションを持てる場、家でも学校でもなく誰もが行っていい第三の居場所、さらには多世代・多機能型の身近な「まちづくり拠点」としての可能性に期待しているのだそうです。
期間限定で行われた、JR八王子駅北口前「オクトーレ」のレストランの空き店舗を利用した取り組み、「オクトーレ子ども食堂」では、企画の一部として「子ども食堂のつくり方」講座や子ども食堂をやってみたい方による「チャレンジ子ども食堂」を開催するなど、子ども食堂を運営してみたいという方々が一歩踏み出すきっかけづくりにも力を入れていらっしゃいます。
大泉寺フードドライブには皆さまがそれぞれに思いを込めて食品を持ち寄ってくださっています。最近では食品を持ってくる代わりに、玄関に設けたフードドライブ用の募金箱に寄付してくださる方も多くいらっしゃいます。個々の想いがこうした現場に繋がり活かされていることを直接伺うことができ、また、参加してくださった皆さまと共にフードドライブのその先にあるものを知ることができ、大変貴重な交流の時間となりました。
画像:講演後には参加者の皆さんからこの日の感想や質問などが活発に飛び交いました。
《國本さんより紹介記事》
「自立は、依存先を増やすこと希望は、絶望を分かち合うこと」
熊谷晋一郎さん(小児科医/東京大学先端科学技術研究センター・特任講師)
アンケート
●今までおぼろげで思っていたことが間違っていたと分かった。内容が新鮮でとても勉強になった。自分でできる支援を考えていこうと思った。
●自分に今できるところから、少しでもフードロスの問題、そして子ども食堂への理解を深め、広めてまいりたいと存じます。
●パントリーと子ども食堂の役割の違いなど、いままで深く考えたこともありませんでした。孤立の問題、こども食堂が貧困対策であってはならないこと、「自立」とは依存できる先をどのくらい持っているかだ、といったお話、深く納得しました。國本様のような実行力のある方によって、フードバンクの活動が広がっていくのだということも実感しました。
家庭菜園で余る野菜もうまく利用されるように、周りに伝えたいと思います。
●フードバンクや子ども食堂は単に食品を提供するだけの場所ではなく「第3の居場所」というところに感銘しました。
社会的孤立をしている人々、精神、発達障害を持っている人々も自由に気兼ねなく話ができて笑顔になれる場所。拠り所が必要なんだと実感させられます。
他人を蔑むような誹謗中傷も多いこの世の中でフードバンクや子ども食堂というものは人間が人間らしい「心のオアシス」のような場所。そんな気がしてなりません。活動頑張ってください。応援しています。
講演前には成道会(じょうどうえ)のご法要も執り行いました。
この日は成道会という機会にあてての企画でありました。「成道」とはお釈迦さまが「お悟りをひらいたこと」です。そのお悟りとは「一切皆苦(誰もが苦しみや悩みを抱えている)」であり、だからこそ「縁起(世の中のすべてはつながりの中にこそ生かされるという考え方)」が大切であるという気付きです。改めて「人と人のつながり」の意味や大切さに気付かせていただきました。
イベントの終了後、國本さんに感想を述べながら雑談をさせていただきました。その中で國本さんからも今回の企画がご自身の経験としても貴重な機会をいただいたと感謝の言葉をいただきました。國本さんはフードバンクの活動の現場で出会う方とはコミュニケーションもあるが、その先にいらっしゃる「実際に食品などを提供してくれる方たち」の顔を拝してお話や感謝を述べることはなかったそうで得難い場になったとのことでした。まさに「つながり」を確認が出来る場であり、またそこから新たな「つながり」が作れたように感じます。
今後もその新たな「つながり」が根を広げ、枝葉を広げ、「社会的孤立」をされている多くの方に繋げていけるようにフードドライブの活動を続けていきたいと思います。
大泉寺住職 久保井賢丈
■大泉寺成道会 鹿野苑のつどい これまでの記録
第1回 2017「シリアで出会ったイスラム」小松由佳さん
第2回 2018「教誨師~刑事施設で活動するお坊さん~」
太田賢孝老師・川上宗勇老師・久保井賢丈老師
第3回 2019「福島からの自主避難」鹿目久美さん
第4回 2020「性の違いってなんだろう」よだ かれんさん
第5回 2021「手話からのご縁」森里美さん、梅田さやかさん