お知らせ

開催報告:鹿野苑のつどい~発達障害についてかんがえる~

大泉寺 鹿野苑のつどいレポート

発達障害と孤立の問題:國本康浩さん(2023年12月4日)

大泉寺ではお釈迦さまがお悟りを開かれた成道会(じょうどうえ)にちなんで毎年この季節に「鹿野苑(ろくやおん)のつどい」を開催しています。

◎成道会と鹿野苑

12月8日はお釈迦さまがお悟りを開かれた日であり、この日を成道会(じょうどうえ)といいます。大泉寺では毎年この時節、その法要に併せて「鹿野苑(ろくやおん)のつどい」と題して講演会、学習会も行ってきました。

「鹿野苑」とはお釈迦さまが初めて説法をなさった場所です。お悟りを開かれたお釈迦さまはその教えを広く理解してもらおうと決意されて、かつて苦行(修行)を共にした仲間の元へと向かいました。しかし苦行を捨てて逃げだしたと感じていた仲間たちはお釈迦さまを受け入れようとしません。悩まれたお釈迦さまは、その野原にいた鹿たちを相手に自分のお悟りを初めて説法をされました。この説法を隠れて聞いていた五人の修行仲間は、その説法に感銘を受け、すぐにお釈迦さまの最初の弟子になるのでした。

この故事にならい、大泉寺では当山でも成道会の行事に併せて新しい事を知り、考えたことが無かったことを考え、「気付き」の場になるようにとしてきました。

◎成道会法要

曹洞宗の東京都多摩地区の青年僧侶の会である一歩の会の皆さん、鬼頭広安梅花師範のお力添えをいただき、厳かにお勤めさせていただきました。

◎講習会(発達障害と孤立の問題:國本康浩さん)

本年で7回目となる鹿野苑は、昨年の同行持にてお招きしたフードバンク八王子の代表理事である國本康浩さんを再度お招きし、その関連事業である発達障害のための就労移行支援の事業所であるフードバンク八王子WORKSの活動から見えてきた社会課題などについてお話をいただきました。

昨今は書店などでも関連書籍を多く見かけるようになり、メディアなどで取り上げることもあるので、見たり聞いたりすることがある「発達障害」という言葉ですが、一般的に理解が進んでいるとは思えないように感じています。かくいう私も悩みを抱えてお寺に足を運んでくれたり、電話相談などをしてくれる若い世代の多くに「精神的な障害やご病気を持たれているのではないか?」と感じる場面もあり、関連書籍などに目を通してはみたものの全体像が掴めずに、知れば知るほど「よくわからない」と感じていました。

國本さんが、この取り組みを始めたのはフードバンク八王子を利用する「お客さん」などの中には多くの割合で「何かしらの障害を抱えている人たち」がいらっしゃったからだと言います。その現場で実際に当事者の方たちと接する中で感じたこと、知ったことなど具体的な事例を挙げながらお話をしてくださいました。

はじめに発達障害とは何かということを、顕著な症状(対人関係やコミュニケーションが苦手、皮膚感覚の違和感など)の事例を挙げて説明いただきました。特に発達障害は「親の教育=しつけ」の問題とみられることも多いようですが、先天的な脳機能障害であり、そのことに誤解が多く、そうした誤解から悩みを抱えている親御さんも多いとの指摘がありました。また知的障害はIQが70以下の場合は「障害」と診断されますが、それに近い数値であっても「障害者認定」が受けられずに社会的な保障も受けることが出来ない、またいわゆる知的障害ではなくとも、明らかに精神的な障害があると推測されるが当人に自覚が無いケース、いわゆる「グレイゾーン」にある人たちには、さらに深刻な課題があると言います。

そのうえで「自閉症」、「アスペルガー症候群」、「AD/HD(注意欠陥多動性障害)」、「LD(学習障害)」に見られる事例を紹介いただきながらも、実際は「健常者」と障害者には厳密な境界線が無いことも教えていただきました。また「グレイゾーン」にある人たちは学校や仕事先などで孤立してしまうことが多く、その結果、職場や居場所を失い貧困状態に陥るといったことも多くみられるとのことでした。

この「グレイゾーン」にある人たちも、特に子どもの場合は早期に発見し、幼少期から的確な対応がなされていれば家族や周囲の理解の中でサポートしていけることも多いので、早期に医療機関、社会保障などにつなげることが重要ではありますが、「障害」という言葉にネガティブな受け取り(受け取られ)方が未だに多い社会の中では、そこも大きな障壁になっていると國本さんは指摘します。そうしたこともあり、先ずは自分や子どもに「障害がある」と受容することが難しいことも多く、医療や保障につなげられないことも多いと言います。そのうえでも重要なのは障害を「医療モデル」として障害者個々の問題として捉えるか、「社会モデル」として障害を理解できていない社会側の問題として捉えるかというのが、その根底にある大きな課題でもあると思います。

さらには、そうした発達障害を抱える中で社会から孤立し、二次障害(うつ病、適応障害、パニック障害など)を起こしてしまうということも見逃せない問題です。

國本さんは、特に就労支援の場で重要なのは「心と身体の自己管理」が出来るように促すことが大切だと言います。そのためには先ずは語り合い、自分の特性、「何が得意で、何が苦手か」、「何が出来て、何が出来ないか」、また考え方のクセや、行動パターンなど「自己」を知ることが重要であり、そのことが自立へとつながるのだと言います。

「貧困」に関わる課題としてはフードバンク八王子の活動でも、國本さんは「食」をツールとして人とのつながりを作っていく「中継地点」と位置付けています。そしてWORKSの活動も同様に、社会(学校、仕事先)と彼らの「中継地点」として、孤立させないこと、社会的孤立の解消にこそが課題であるとおっしゃいます。また、それが一時的な支援に留まらず、継続的な「寄り添い」をどのようにすべきかも課題とされています。

國本さんのお話しが終わってからフリーディスカッションと質疑応答の場を持ちましたが、30分という時間があっという間に尽きるほど熱心な質疑が交わされ、社会一般的にも関心があるのだなと感じました。また実際に社会福祉施設に関わっている方、発達障害当事者の保護者の方、社会教化事業の中で当事者と関わっている方などにも参加いただき、より深い話をいただくことができたと思います。

私もお話を聞く中で、まだまだ「わからないこと」も多いと思わされました。むしろ以前に本などからの知識で学んだことだけでは「わからなかったこと」、その大きくも広い課題が「さらに、わからなくなる」ような気がしました。しかし、実際に現場で活動されている中での國本さんのお話を聞いて、実は私にとっても身近で「生々しい」ものでもあると感じました。それは國本さんの言葉のから感じる「人と人のつながり」を如何に感じていくべきかという現場の空気、その「生々しさ」のようなもののようにも思います。今、目の前の人と、自分と、どう向き合うか。

そのコミュニケーションの持ち方も「1年、2年をかけて信頼信用を築いていく」というお話もありました。そのコミュニケーションに持ち方に近道や正解はなく、「覚悟」をもって根気強く向き合っていく事だと國本さんは言います。私も根気強く、しっかりと、一人ひとりに丁寧に向き合っていこうと思いました。

私にとっては「発達障害についてかんがえる」というだけに留まらず、少しでも信頼信用していただける自分になれるよう、改めて自身を顧みる時間ともなりました。

こうした時間を作っていただいた國本さん、また一緒に考える場を作っていただいた参加者お一人お一人に改めて感謝申し上げます。

文責:久保井賢丈

====
これまでの「大泉寺 鹿野苑のつどい」
第1回(2017年)「シリアで出会ったイスラム」小松由佳さん
第2回(2018年)「教誨師~刑事施設で活動するお坊さん」曹洞宗教誨師の皆さん
第3回(2019年)「福島からの自主避難」鹿目久美さん
第4回(2020年)「性の違いって何んだろう?」よだかれんさん
第5回(2021年)「手話からのご縁」森里美さん、梅田さやかさん
第6回(2022年)「フードドライブから見えてくること~貧困と社会的孤立~」國本康浩さん

=====
【お問合せ】大泉寺(久保井賢丈)
電話:042-645-9558/FAX:042-656-2200
お問合せフォーム
住 所:東京都八王子市大和田町7-13-1

1月のお知らせ~坐禅会・写経会・フードドライブ~

1月のフードドライブは4日(木)~21日(日)です。

■みんなお寺に来てほしい~大泉寺のバリアフリーの取り組み~

最近のお知らせ

法臺山 大泉寺 > お知らせ > 開催報告:鹿野苑のつどい~発達障害についてかんがえる~